隣地との擁壁のトラブルを未然に防ぐ方法のお話し

こんにちは。ゆきまるです。

不動産の現場から、今回は土地や建物を売買するときにお隣の土地との間に擁壁がある場合の実務的な対応方法や注意点などについてお話したいと思います。

はじめに、塀と擁壁の違いとは? 

本題に入る前に、塀と擁壁の違いについてお話ししたいと思います。擁壁は宅地の土(地盤)を支える壁の事をいいます。

これに対して、塀は土を支えるものではなく、宅地の地盤の上に作られる土地の境界等に設置する壁です。塀は、擁壁の上に擁壁とは異なる構造物として増し積みする形で設置されているケースも多くあります。

擁壁は土を支えるため、土圧がかかります。そのため、その擁壁が安全な擁壁である事を証明できない場合は、擁壁の近くに建物が建てられなかったり、いろいろな制限がかかってしまう事があります。

2mを超える擁壁には要注意! 事前に知ってトラブル回避!

自分の土地の周りに擁壁があった場合には、高さに注目してください。

自分の土地や購入を検討している土地に2mを超える擁壁が近接している場合は、同じ場所に建物を再建築する際に、建物を建てられない部分が発生したり、建物に杭を設置しなければならない等、建築制限や行政指導を受けてしまう可能性があります。

後々のトラブルを未然に防ぐためにも、2mを超える擁壁があった場合には、次の点に注意して建物の建替えや売買をする前に、予め調べておくことをお勧めします。

ポイントは、「その擁壁に認可があるか?」 認可が無かった場合「その擁壁はだれのものか?」です。

その擁壁に認可はあるか?認可が無い場合は建築制限が発生します

このポイントは特に重要で、擁壁に認可が無い場合は、人工的に作られた擁壁であっても”生のがけ地”と同じ扱いとなり、「がけ条例」による建築制限を受けることになります。

擁壁の下にある土地の場合は建物を建築できる面積が狭くなってしまう(建築に利用できない部分が発生してしまう) 場合があり、擁壁の上にある土地の場合は、建物を建築する際に深基礎にしたり、地中深くまで杭を打設する必要が生じます。

がけ条例とは

高低差のある傾斜地などで地震や豪雨でこれが崩れ、大切な人命や財産が危険にさらされる事を防ぐための基準が定められている条例です。
認可が無い擁壁で2mを超えるものは「がけ」とみなされるため、この条例の適用を受けます。
条例による建築制限について、以下に要点を絞ってお話します。

●認可の無い擁壁の下にある土地の建築制限

認可の無い擁壁の下にある土地の場合は、その擁壁の高さの2倍以上の離れた場所でしか建築する事ができません。

例えば、擁壁の高さが2mであった場合、擁壁から4m離れた場所でしか建物を建築する事ができません。

新たに認可擁壁を設置すれば隣接地の近くでも建築可能になります。

●認可の無い擁壁の上にある土地の建築制限

認可の無い擁壁の上にある土地の場合も原則として、その擁壁の高さの2倍以上離れた位置でしか建築する事ができません。

但し、建物の基礎や杭を地中の安息角のラインまで設置して、擁壁(がけ)に土圧がかからないように設計すれば、安息角の上端よりも手前で建築することができます。

安息角とは、土砂を積み上げたときに崩れることなく安定を保つ斜面の最大角度のことをいい、その角度は30°とされています。

※ここでは、分かりやすくするために、要点を絞って説明しています。各自治体や個別の擁壁の状態や土地の地勢によって制限や行政指導が異なります。認可が無い擁壁近くに建物を新築する場合は、いかなる場合であっても擁壁を再建築するよう指導されるケースもあるようです。詳細は役所等でご確認ください。

その認可が無い擁壁は誰のもの? 

このポイントに関しては、後々のトラブルを回避するためにも、とても重要です。

その擁壁が自分のものか隣接地所有者のものかで対応が異なります。次の図を具体例にお話しします。

①図の擁壁が自分のものであった場合

図の擁壁が自分のものであった場合、権利上は自分自身の判断で撤去してもいいと考える事はできます。

しかし、実際のところ隣地には住居が建っており、擁壁を撤去すると隣地の地盤が崩れてしまう可能性が高く、現実には撤去することができません。

また、その擁壁の補修・維持管理も権利上、自分自身で行わなければなりません。

隣接地所有者の地盤を支える働きも兼ねている構造物であるにも関わらず自分が費用負担して補修や維持管理をすることは腑に落ちないところです。。。

②図の擁壁が隣接地所有者のものであった場合

図の擁壁が隣接地所有者のものであった場合、自分が建物を再建築しようとする際、がけ条例にしたがって擁壁から一定距離を離して建築するか、自らの費用負担で新たに認可擁壁を新設する必要があります。

お分かりの通り、認可の無い擁壁が隣接地との間にある場合、その擁壁が自分のものであっても、隣接地所有者のものであっても、将来的には何らかの費用負担が発生することを覚悟しておくことが大切です。

少なくとも2mを超える認可の無い擁壁が隣接地との間にある場合は「その擁壁が誰のものか?」について予め隣接地所有者と協議して明確にしておくことは、自分も、隣接地所有者も、それぞれが将来必要となる費用についてある程度明確にすることができるため、後々のトラブル回避につながります。

がけに関する先駆けとなる法令自体は、昭和20~30年代には既に存在しましたが、建築諸申請・許可制度が成熟の途上にあったことから、現に古い建物が建っていても(既存のの建物はOKでも)、この例のように再建築する際には制限を受けてしまう現場が数多く存在します。

未然にトラブルを防ぐための方法

擁壁について、ここまで知った上で、ここからは未然にトラブルを防ぐための3つの実践方法についてお話したいと思います。

【実践①】擁壁の認可の有無について調べる

今までの話の中で、擁壁の認可の有無は非常に大切であることは言うまでもありません。では実際にどのように調べたらよいかについて、以下に記します。

(1)自分が保管している資料を見てみる
  • 建物を新築した当時の図面に記載がないか確認する。
  • その土地や建物家屋を購入した時の資料に擁壁の記載がないか確認する。
(2)役所で調査してみる
  • 「都市計画法の許可を受け、検査された擁壁でしょうか(開発登録簿を確認したい)?」と聞いてみる。
  • 「宅地造成等規制法の許可、検査の資料は無いでしょうか?」と聞いてみる。
  • 「建築基準法の工作物の確認申請、検査済証の資料は無いでしょうか?」と聞いてみる。

上記の質問事項について、各市区町村の役所の中でもそれぞれ管轄している部署が異なる場合があります。

これらの質問事項は1つずつ管轄する部署を確認して、調査してみるとよいと思います。

おおよそですが、「都市計画課」「開発指導・審査課」「建築課指導・審査課」「土木課」といった部署が担当になると思います。

【実践②】確定測量を依頼する

次に、土地家屋調査士に依頼して確定測量を行なうと良いでしょう。

隣接する土地所有者の数にもよりますが、費用はおおよそ「40万円~60万円台」ほど見ておいた方が良さそうです。

将来自分たちが建物を再建築したり土地を売却する際の法的根拠資料になるだけではなく、隣接地が土地を売買したり建物を再建築する際にも、土地所有者として正しい主張をする事ができるようになります。

費用がかかる事ですが、確定測量は土地を所有している限り、いつかは行わなければならない可能性が高いですし、また擁壁に関するトラブルを未然に防止する効果も見込めるため、ご自身の土地の周囲に擁壁がある場合には、予め確定測量を行う事をお勧めします。

また、確定測量を行う際は高低差(レベル)も併せて計測してもらうと良いでしょう。

【実践③】擁壁の所有者を明確にして隣地所有者と覚書を交わす

確定測量を行うと、擁壁が土地の境界にまたがっている事が判明するケースは少なくありません。

確定測量を行う際は「擁壁が誰のものか?」についても同時に明確にすると良いでしょう(明確にした方がいいです)。

擁壁の所有者の考え方や決め方は、いろいろとありますが、特別な事情が無い限り、擁壁の上の土地所有者を擁壁の所有者とし、擁壁の維持管理を行うよう取り決めた方がよいでしょう。

擁壁の上の土地所有者にとっては、そもそも自分の土地の地盤を支える構造物であることから、擁壁は自身で管理したいところです。また、将来的に勝手に擁壁を解体される心配も無くなります。

擁壁の下の土地所有者にとっても、擁壁に破損が生じた場合であっても自身が(擁壁の上の土地所有者がタダで得するような)補修工事をする必要が無くなります。

このように、双方にとって理にかなった決め方といえるでしょう。

確定測量を行うのと同時に、擁壁について所有者を明確にし、擁壁の越境・被越境に関する覚書(将来擁壁を再構築する場合は、境界線を遵守して構築する旨の覚書)を取り交わしておきましょう!

以上、これらの3つを実践することで、隣地との擁壁のトラブルを未然に防ぐことができます。みなさんのお役に立つ内容ですと幸いです。

ゆきまるでした。